あなたとビジネスをするべき理由を一つ挙げる

2023/10/09

数年前、私は『シャーク・タンク』というテレビ番組を見始め、夢中になりました!このビジネス系のリアリティシリーズは、起業家が審査員である5人の投資家(シャークと呼ばれる)にビジネスプレゼンテーションを行い、彼らがその企業への投資の可否を決めるというものです。私は、この番組から大切なビジネスの教訓が得られることに気づきました。中でも、あるエピソードが特に印象に残っています。

そのエピソードに登場した起業家レイヴン・トーマスという女性は、チョコレートや他のお菓子でコーティングしたプレッツェルを専門とする食品事業The Painted Pretzel(ペインテッド・プレッツェル)を立ち上げ、ビジネスもかなり好調とのことでした。また、その場でプレッツェルを試食したパネリストたちは、「とても美味しい」とコメントしていました。議論がかなり進んだ後、シャークの一人であるロリ・グライナー氏が会話も終わり掛けになった頃、次のような質問をしました。「私たちがあなたに投資すべき理由は何ですか?」

私はその瞬間に、これは正に重要な質問であり、レイヴンの回答次第で投資の可否が決まるなと感じました。レイヴンはロリに対して「主な理由は、私には2人の小さな子どもがいて、なんとかかんとか・・・(彼女は母親としての自分を語った)」と答えたのでした。私はすぐに見ていた番組を一時停止し、私の(今は亡き)妻のベスの方を見て、叫びに近い声を上げました。「彼女はやってしまったよ!彼女は、取引をしようと構えているシャークの一団に、完全に自分の家族の話をしてしまった! 彼らは、彼女の身の上話になど興味はないんだよ。『今の仕事が好き』なんてことより、『お金を出してもらえますか』くらいの言葉が聞きたいのに!」

聴衆が求めることは何か

「ビジネスの話をする時には、聞く人たちのことをわかっていないとね」と、ベスの答えは的を射たものでした。私たちは番組の先を見進める前に、もし彼女が彼らからの投資を望むのなら、彼女にとってシャークたちが使う言葉で話をすることがどれだけ重要なのかを話しました。彼女はビジネスの機会や成長、投資対効果、そして現金にフォーカスしたことを話すべきでした。しかし、レイヴンは自分のビジネスに対する思いやその思いが子どもたちにどんな影響を与えるかについて話したのでした。彼女は、シャークたちが本格的で分析的な事業投資家として、レイヴンのビジネスへの投資が賢明であるかの確証を見出そうとすることに対し、何一つ答えることができなかったのです。

「それは違うし、フェアじゃない。ああでもない、こうでもない」と思う人もいることは理解しています。しかし、私は何がフェアかについて話している訳ではありません。私が話しているのは、こうなることは十分に予測できたということです。彼女があの答えを口に出した瞬間、おそらく資金調達のすべてのチャンスを失ってしまったと私は思いました。なぜなら、彼女は投資を考えているプロフェッショナルたちに対して、自分の身の上話をしてしまったからです。

私は、これから起きる列車事故の目撃者になり得ることを確信しながら、再び番組を見始めました。しかし驚いたことに、シャークの一人であるロバート・ハージャヴェック氏は、レイヴンに「やり直し」をさせてあげたのです(私はこのシャークが本当に好きで、もしビジネス番組のパネリストになることがあれば、私は彼のようなスタイルでありたいと思っています)。ロバートはレイヴンを見つめ、彼女に「もう一度やってみましょう」と言って、もう一度彼女がましな答えを出す機会を与えました。

彼女は少し考えて、「私に投資すべき理由ですが、私は大きな注文を受けるだけの資金がなく、200万ドルの取引を諦めざるを得ない状況でした・・・・・・・。でも、まだそのドアは開いているのです」と答えました。この答えは拍手喝采もので、シャークたちの関心を完全に引き付けました。数分後、マーク・キューバン氏(シャークの一人でプロバスケットチーム「ダラス・マーベリックス」のオーナー)は、レイヴンが望んでいた現金での投資10万ドルを提示しました。併せて、彼が所有するスポーツスタジアムと映画館チェーンの各店舗で商品を販売する提案もしました!もちろん彼女は彼の提案を受け入れました。その結果、翌年には彼女の会社の売上高は、120万ドルを超える見込みとなったのです!

このエピソードから得るべき教訓は、聴衆が求めることを確実に理解し、聴衆に適したコメントを編み出すことが極めて重要であるということです。これはビジネスの世界でもネットワーキングの世界でも非常に重要なことです。

聞いている人が聞きたいことを話すようにと言っているのではありません。

私が言っているのは、相手が一番良い形で話を聞くことができるように話そうということです。相手にとって最も関連することで、最も興味を持つ話題を話しましょうということです。

だからこそ、私は初対面の人々と会話を始める際、自分自身について長々と話す前に、まず相手についての質問をすることをお勧めしています。相手のことをよく知れば知るほど、あなたが伝えたいメッセージをその人たちの心に響くように効果的に作り上げることができるでしょう。

あなたが「聴衆のことがわかっている」人の前で話した経験、あるいは「わかっていない」人の前で話した経験など聞かせてください。

訳=川崎あゆみ