「何を話すのかより、どのように話すのかが大事だ」という言葉を、多くの方が聞いたことがあるのではないでしょうか。実は私は、この言葉の意味を痛感したことがあります。それは、話している相手が憤慨しているときは、普通に会話をする時以上に、伝え方が難しいと思った出来事でした。
私がBNIを創設した1980年代半ばは、まだ組織自体も初期の頃でチャプター数も少なく、私が直接チャプターミーティングに訪問できるくらいの規模でした。ある日、とあるチャプターのプレジデントから次回のミーティングに来て欲しいとの連絡が入りました。というのも、彼が所属するチャプターの運営がスムーズかつ効率的に行えておらず、苦労しているので、改善すべき点について「アドバイスをもらいたい」ということでした。
出来る限りお役に立てれば嬉しいと思い、呼ばれたミーティングに出かけ、会の進行中は会場の後ろの方の椅子に腰かけて、その様子を観察していました。チャプターのプレジデントからメンバーの前に出て来て、フィードバックをして欲しいと言われたので、私はみんなの前で、この会の運営がより効果を生むために、改善できる提案や変更した方がいい点を伝えました。
すると突然、メンバーの女性が手を挙げて、こう言ったのです。「気取って出てきたと思ったら、あなたが思う、私たちの間違ったやり方をあげつらうなんて、あなたは一体何者なんですか? 私たちのこと何も知らないでしょ!」と。
返答する? 反応する?
彼女の発言に対して、私は、どのように返答したでしょう? それは返答ではなく、反応でした。反射的に「私は、この組織の創設者ですから」と言って自分を守ろうとしたのです。私が指摘した内容には根拠があり、もしチャプター運営の現状を改善したいのであれば、私が話すことに耳を傾けるべきだというような議論を試みましたが無駄に終わりました。私の対応は、完全に裏目に出ました。なぜなら、話している相手が明らかにひどく憤慨し、すでに私を敵だとみなしている状況において、前向きかつ解決に向けた会話に導く戦略を持ち合わせていなかったからです。
その日、私はそのミーティングから家に帰る途中、最初の20分間は、私に対して失礼な態度を取った女性に対して、強い憤りを感じていました。朝早く起きて、わざわざ車を運転してミーティングに行き、彼らのために私のその日のほとんどを使ったのに!と。自分しかいない車内で、腹が立っていた私は、怒りに任せた激しい言葉を(ここでは、具体的には控えますが)ぶつぶつ言いながら、彼らのその恩知らずな態度を言葉で罵り、鼻の穴を膨らませながら渋滞の中を走り抜けました。
時間が経つにつれて落ち着きを取り戻し始めたときに、カスタマーサポートと顧客からのクレームへの対応に関するBNIの方針を思い出して、さっきまで怒り狂っていた同じ車内で、もっとよい収め方があったかもしれないと考え始めました。以下は、BNIのポリシーから抜粋したものです。
重要なポイント
- 人は、あなたがどれだけ相手のことを気にかけているのかを知るまでは、あなたがどれだけのことを知っているのか、全く気にしていないことを覚えておきましょう。
- 相手の話を聴いて、相手に話してもらいます。そして、聴いて、聴いて、聴く。
- 質問をしましょう。そして、また聴きます!
- 情報を確認する
- 相手の不満に理解を示し、どんな風に役に立てるのかを尋ねる
- 問題の解決方法を確認する
- 相手に感謝する
- 駆け引きは、相手を自分の土俵に引き込むための技術です。駆け引き上手になりましょう。
それから数年後、「Crucial Conversations」という本に出会いました。意見が対立するような状況にどのように備えるのかを説いた本で、怒りや傷ついた感情を説得力のある対話に変換し、何について話しても安全な状況を創り、喧嘩腰ではなく、説得性を持って話せる状況を作り出す方法が書かれています。
この本で書かれた戦術、戦略のいくつかは、緊張が高まる状況にあった場合の対処について、私が概要をまとめたBNIの方針と一致していました。また、あなたが置かれたどのような状況においても、あなたが言いたいことがなんであれ、関係する人全員にとって、最良の結果を導き出す方法(つまり話し方)を提示するための戦術が付け加えられており、非常に役に立つ内容です。
一度口にしたことは取り戻せませんし、間違ったことを言ってしまったことがとんでもなく悪い影響を及ぼすこともあります。全ての会話において、話す相手が誰であれ、どのように伝えるのかが重要です。リファーラルグループの仲間、仕事関係者、あるいはあなたに一番近い愛する人たちと話すときも、自分が口にする前に自分が何を言いたくて、どのように伝えたいのかをきちんと理解しておきましょう。
この身をもって、この辛い体験をした者から学んでください。
訳=川崎あゆみ