語られていないことに耳を傾ける

2024/02/26

人と人とのあらゆるやりとりが成長につながる可能性を秘めているビジネスの世界において、「コミュニケーションで最も重要なことは、語られていないことを聞くこと」というピーター・ドラッガーの言葉には説得力があります。

これは真実であり、極めて重要なことです。なぜなら、人間関係の質は、コミュニケーションの質によって決まるからです。あなたの売上げを増やしたり、リファーラルを通じてビジネスを成長させるためには、この概念を理解しておくことが成功への基盤となります。

ただし、すべての販売取引に人間関係や緊密なコミュニケーションを必要とするわけではありません。オンラインショッピングを考えてみると、取引は瞬時に終わりますし、人とのやり取りもほぼありません。しかし、アメリカのスーパー「ウォルマート」のように心のこもった顧客サービスを売りにしていない小売業界最大手ですら、コミュニケーションや関係構築の価値を強調しています。店頭でお客様を迎える来客応対係を採用していることは、大規模小売り業界であっても、顧客との関係を育むために戦略的な取り組みを行っているということを明確に示しています。

私の友人であるサラ・ミニスは、経験豊富なコーチで、営業のプロたちが顧客から拒絶された場合に起こる複雑な感情を乗り越えるための手助けをしています。彼女は、見込み客や顧客から断られることを恐れる人たちへのコーチングを通して、営業活動において多くのセールスパーソンが直面する恐怖症の克服に取り組んできました。「営業恐怖症の人は、飛込み営業やクロージング、あるいは電話での会話中に拒絶されることに対して現実的ではない恐怖を覚えているのだと思う」と彼女は話します。

これは、営業恐怖症の人は顧客とのコミュニケーションを図る中で、お互いの感情が合致しているかどうかに焦点をあてる傾向があるためだと、彼女は示唆します。「営業恐怖症の人は、見込み客やお客様が自分に対して“好意的である”と感じるまでは、本来のセールスを始めることができません」と説明します。これを避けるために、サラはこう話します。「営業のプロがコミュニケーションを取るのは、自分が取り扱う商品とお客様のニーズが一致する部分を見つけるためです。“好かれること”に焦点を当てると、個人的に拒絶されることへの恐れを増幅させてしまいますが、お客様のニーズに注意を向けることによって、取引は成立に向かいます」。

コミュニケーションが関係を築く

顧客と強い関係を築くことは、セールスパーソンが仕事をする上でのアドバンテージとなります。なぜなら顧客がセールスパーソンと「関係性ができている」「つながっている」と感じることで、繰り返し利用してもらえる可能性が高まるからです。この「結びつき」を築くためには、コミュニケーションが最も重要なツールであることは明らかです。コミュニケーションの質が、強い結びつきを築く要となります。

コミュニケーションは、言葉の単なるやり取りの域を超えたものです。それは単に話す・聞くという行為以上のものであり、相手がメッセージを注意深く聞き、理解されることを目指す戦略や技術が含まれています。その中でも重要なことが、相手に自分のスタイルを押し付けるのではなく、顧客のスタイルにコミュニケーションの仕方を合わせる能力です。この戦略的に相手に合わせるコミュニケーションが、素晴らしい営業トークができる状況や環境を作り上げます。これは、顧客の好みやコミュニケーションのパターンを理解することを通じて築かれるものです。

現代のビジネス情勢においては、販売スキルは、よりコンサル型にシフトしています。多くの大規模小売店ではこの進化を受け入れ、いわゆる店員がかつて行っていた役割を「セールスコンサルタント」という役職名で呼んでいます。優れたセールスコンサルタントは、顧客の課題を解決するための商品やサービスを販売するためには、効果的にコミュニケーションを図れる能力が必要不可欠であることを認識しています。心が通い合った信頼関係は、販売を成功に導く基本的な要素であり、コミュニケーションという織物の中に複雑に織り込まれています。成功しているプロフェッショナルなセールスパーソンは、顧客との関係を構築し維持するためには、コンサル型でコミュニケーションを重視したアプローチが欠かせないということを理解しています。

ピーター・ドラッガーの「語られていないことに耳を傾ける」という深い英知は、進化し続けるビジネスネットワーキングとセールスの方法に影響を与えています。言葉にされていない言葉を読み取り、ボディーランゲージの意図を理解し、戦略的かつ順応性のあるコミュニケーションの手法を一体とした能力は、今日のビジネス環境においてセールスパーソンの力量を高めるための鍵となります。今後、販売コンサルタントの役割は、肩書以上に大切なものになります。変化し続けていく状況において、コミュニケーションを効果的にとれることが長く続く成功の礎となるのです。

訳=川崎あゆみ